4月17日
感謝!感動!〜名古屋高裁で自衛隊イラク訴訟で違憲判決〜
2001.9.11のテロをきっかけに始まった米・英の対イラク戦争。2003.3.20以来、多くの一般市民(10万人以上という推定も)を含む犠牲者は今も増え続けている。
専守防衛であるはずの日本の自衛隊、イラク特措法(2003年、強行採決)に基づき、「非戦闘地域」ということでイラクの首都サマーワで給水活動等を行っていた陸上自衛隊が2006年に撤退してからもなお、海上自衛隊は多国籍軍の一員として、物資や人員輸送のためインド洋に出かけたままになっている。(昨年7月の参院選民主党躍進により、延長期限切れで昨年11月に一度帰国、その後衆院で3分の2・再可決され、再びインド洋へ)
PKO活動から始まった自衛隊の海外派遣は、戦後の出発点となった平和憲法の精神から逸脱、派遣先のイラクではまぎれもない「戦闘」が行われているという悲しい現実。
しかし、「選挙」という民主的な制度で選ばれた国会議員が決めたこと(小選挙区制の弊害とはいえ・・・)であり、つまりそれは国民の総意ということになってしまうのだ。第2次大戦で尊い数百万の日本人、数千万のアジアの仲間たちの生命を奪った悲しみと反省のもとに生まれた日本国憲法 前文と第9条、世界で最も崇高な精神を持つこの平和憲法のもとに生きる国民として、私たちが戦争への間接的(限りなく直接に近い)参加の是非を世に問える手段のひとつが「司法に訴える」ということ。法治国家であるはずのこの国では、いちおう、三権分立が体をなしているのだから。
全国12都市で、原告団結成!
ということで、2004年ごろから、北海道から熊本まで全国12の地方裁に「自衛隊のイラク派遣は憲法違反」との民事裁判が提訴された。当時それぞれ高校生、大学生だった子どもたちも含め、一家4人で名古屋訴訟の原告となった。
原告団長の池住義憲さんとはNGO活動を通して10年来のお付き合い、4人が心から尊敬する人であり、彼からの呼びかけに応えたのだ。周りの徳島県の友人たちにも呼びかけ、名古屋の原告団には徳島からもたくさん加わってくれた。その後、名古屋原告団は全国で最高の3251名となる。訴状の内容は
- 私たちの「戦争や武力行使をしない日本に生存する権利」の侵害を根拠に、自衛隊のイラクへの派兵の差し止めを求める。
- イラクへの自衛隊の派兵が違憲であることの確認を求める。
- 私たちの「戦争や武力行使をしない日本に生存する権利」は既に侵害されており、今後も、政府が自衛隊のイラク派兵を続けることにより、私たちはイラクの人たちを武力で抑圧する「加害者」となることを強いられ続けることになり、耐えることのできない精神的苦痛を受ける。この精神的苦痛はお金に換算することはできないが、敢えて換算した場合、一人1万円を下回ることは決してない。精神的苦痛の一部として原告一人につき、1万円の慰謝料を請求する。
- イラクへの自衛隊派兵は、明らかに武力行使にあたり、憲法違反の中でも、最も許されない憲法秩序の破壊行為。同時に、原告らの平和的生存権が侵害されており、裁判所は、原告らの平和的生存権に対する侵害の事実を認めるべき。
もちろん原告たちは慰謝料目当てだったのではなく、民事裁判とは直接に何かを請求する必要があるらしい。
結果地裁では敗訴するが、名古屋高裁への控訴審では、憲法違反、イラク特措法違反の認定についても、平和的生存権を抽象的権利でなく一般的権利として認めたことも、完全勝利するのであるが、慰謝料支払いの必要まではなし、派兵を差し止める行政的なことはこの裁判ではふさわしくない、という判決主文になり、そのため福田総理の「裁判には(国が)勝ったんでしょう?」という発言。
しかし、国は形式的に勝ったため上告できず、原告ももちろん上告せず、憲法が制定施行されて61年、初の「違憲判決が確定」という奇跡を生んだのだった。
ちなみに、59年砂川事件判決、73年長沼訴訟判決での違憲判決は上級審で覆されたため確定していない。35年前の長沼訴訟判決を出した福島元判事は、「高度に政治性のある国家行為については、司法は判断権を有しないとする統治行為論という考え方があるが、それは司法が政治に追従、譲歩することに他ならず、日本が法治国家でなくなってしまう。裁判所は証拠にもとづいて堂々と判断を示し、それを積み重ね、国民の間で議論が深まることが法治国家のあるべき姿である」と朝日新聞のオピニオンで述べている。
この判事は、長沼判決後に東京地裁手形部、福島、福井家裁勤務し、定年まで6年を残して退官されており、違憲判決により出世の道が閉ざされたことが想像できるが、なんと光り輝くカッコイイ功績であることか。
さて、名古屋地裁に提訴から4年あまり、池住さんには徳島に講演やファシリテーター養成講座をお願いし3回ほど来てもらった。そのたびに彼は、裁判の現状を参加者に詳しく報告して下さっていて、今年3月、福岡でのNGOフォーラムでお会いしたときにも、「控訴審では原告側の証言や意見陳述に裁判官が真摯に耳を傾けてくれており、その態度から、また裁判長の退官前の判決であることからも、結果が期待できる。青山裁判長は違憲判決を出してくれると信じている。プレッシャーを受けている裁判官たちに、市民の後押しがついているよ、という気持ちを伝えるために、激励の葉書を出す運動に加わってほしい。」と、その最後まであきらめない姿勢に胸を打たれた。「4月17日、歴史的判決を聞きに名古屋に来ませんか?」との呼びかけに、福岡の若い大学生が「僕、行きます!」と応えていたのだった。
名古屋に行けなかった私は、週明けから「今週、判決やね。」前日には「明日はいよいよじゃよ。」とつれあいと話し、当日は昼過ぎからインターネットの地方のニュースをチェック、結果を知った。悲しいこと、悔しいことではほとんど泣かない私も、嬉しいことには弱く(年のせい?)、涙、涙、涙。友人や家族にメールや電話をしまくり、池住さんにもおめでとうメールを送った。その夜は普段見ないTVも全ての局のニュースを見て、翌朝は新聞各紙をコンビニで揃えた。各紙をそろえたのは吉野川の住民投票以来。何に感謝していいのかわからなくて、全てのものに「ありがとう」と言いたい気持ちだった。
池住さんのメール(抜粋)
法廷で、涙がでました。裁判長が、「よって、現在イラクにおいて行われている航空自衛隊の空輸活動は、政府と同じ憲法解釈に立ち、イラク特措法を合憲とした場合であっても、武力行使を禁止したイラク特措法2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し、かつ、憲法9条1項に違反する活動を含んでいることが認められる」と述べた時です。名古屋高裁1号法廷で言渡された「自衛隊イラク派兵差止訴訟」控訴審判決で、4月17日午後1時45分頃のことでした。裁判官の英断に心からの敬意と感謝を表したい。
「池住さん、絶対に勝てないよ」「まぁ、やるだけやってみたら・・・」「負けるのわかっているのに、なぜやるの?」と言われて始めた裁判。私の仲間・友人に呼びかけ相談したのは、2004年1月7日でした。同年1月19日に準備会を持ち、その後わずか1ヵ月で1,200名を越える原告が全国から集まり、同年2月23日、名古屋地裁に提訴。その後も原告は増え続け、第7次原告まで計3,268
名になりました。
判決文
私たち一般人がこれまで得られていたTVニュースなどからの自衛隊のイラク・サマーワやインド洋での活動は、それぞれ「イラク復興のための給水」「インド洋での給油」という一言で済まされがちで、全く情報不足。小泉、安倍、福田の歴代首相は「国際貢献」「イラク国民は歓迎している」とインタビューで繰り返すのみ。
インターネットなどで調べたり、NGO活動などで関わっている人の講演へ出かけていくなど、よほど興味を持って情報を探さない限り、その実態、惨状をほとんど知ることができなかった(それでも調べようと思えば調べられるだけ、前の戦争のときよりマシなのかもしれないが)。徳島でもこの5年の間、高遠菜穂子さん、安田純平さん、佐藤真紀さんなどの生の声を聞くことが出来たし、無力な私でも、生の話を聞いて感じて、身近な人に伝えることだけはしなければと出かけて行ったのだった。
名古屋高裁判決文では、「当裁判所の判断」の中の「認定事実」の項でイラクの惨状が詳しく述べられ、そこが今もなお「戦闘地域」であると認め、「戦闘地域への自衛隊派遣はイラク特措法違反」と明言している。
また、海上自衛隊の空輸活動が、「それ自体武力の行使に当たらないとしても、現代戦において輸送等の補給活動もまた戦闘行為の重要な要素である」と述べ、「空輸活動のうち、少なくとも多国籍軍の武装兵員を、戦闘地域であるバグダットへ空輸するものについては、他国による武力行使と一体化した活動であって、自らも武力の行使を行ったとの評価を受けざるを得ない行動であるということができる」「よってイラク特措法を合憲とした場合であっても、イラク特措法2条2項、同3条に違反し、かつ憲法9条1項に違反する活動を含んでいることが認められる」とのべている。
提訴から4年余り、原告がさまざまな方法で主張してきたイラクの実態、100回を超える弁護団の主張書面提出など平和を求める関係者の努力に、裁判官が正面から真摯に応えた結果だ。何度読み直しても、感動の判決文、
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p1-12(PDF 形式、約1.2MB) p13-26(PDF 形式、約1.2MB)
法的拘束力はない
残念ながらこの判決に法的拘束力はなく、政府関係者(首相、防衛相、自衛隊幹部)は、「そんなの関係ねぇ」発言もあり、裁判所の判断をできるだけ無視しようという対応だ。私たち大人は子どもたちにこのことをどう説明すればいいのか。
憲法を守る義務のある国務大臣や総理大臣が公然と守らないなら、私たち国民も法律を守らなくていいの?
社会の秩序が保たれないのではないか。
名古屋訴訟の会は呼びかける。
「この判決を活かすか殺すかは、私たちの「不断の努力」(憲法12条)にかかっています。 「良い判決が出て良かった」で終えてはいけない。政府はこの判決をつぶしにかかるでしょう。 私たちは覚悟をもって、4.17違憲判決を力に、平和憲法の理念を実現させるために、 さらに一層私たちの力を発揮するときです。ともに頑張りましょう。」
また、福田総理宛に、自衛隊の撤退を求める署名も集めている。
集約は6月末、ご協力ください。署名簿
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